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「届かなかった手紙(四)」

 あなたはこのことも十分にご承知でしょうが、
僕たち人間は自分自身の人生を「選択」することができます。

植物や昆虫や動物など人間以外の生命体は「本能」に支配されて、
あらかじめ定められたプログラムに縛られていますので、
その選択の幅は非常に狭く限定されていますが、
僕たち人間は自分自身の思いも考えも行動も、
すべて自分の望むように選択できる自由のうちに生きるように創られています。
 
 このことについて僕たちはああそうかと、当たり前のこととして意識を向けませんが、

「自分の思いも思考も行動も、すべてを自由に選ぶことができる」、

このことほど人間にとって重要なことはないと言えるかも知れません。
 
 こうお書きすると、その重要性をあなたも重く受け止めることが出来ると思います。

「自由意志」

即ち、自分の人生を自分自身で選び取ることが出来るということ、
本能で既に決定されているのでも他から強制されて動かされているのでもなく、
自分自身の望むように自分自身の人生を自由に選択することが出来ること、
これ以上に望ましいことはないではないですか。
 
 そう、僕たちは過去に何があろうと、今置かれた境遇がどうであろうと、
過酷な仕事を負わされようと、病気に冒されようと、
蛆虫にも値しないと自分を否定し傷つけ呪ったとしても、
何ものをも信じないと虚無の部屋に閉じ込められ続けて来たのだとしても、
不当に虐げられて来たのだとしても、
裏切られ罵られ傷つけられて来たのだとしても、
誰にも報われなかったのだとしても、
それでも僕たちは自分がどんな人間でありたいのか、
明日からの自分を選び取って、なりたい自分になれるのです。
 
 傲慢で人の心を分からないエゴイストになるのか、
それとも素直で謙虚でひとの心を大切にする愛に充ちた人間になるのか。

僻んで拗ねて、誰も信じない、誰も分かってはくれない、愛なんてないのだと、
報われない自分に頑なに拘って自分のうちに閉じ籠るのか、
或いは蛆虫にも値しないとしか思われない自分自身を乗り越えて、
感謝と喜びに満たされた愛を身につけようとするのか。

それとも情欲の快感や自傷や自死に自分の生きる意味を求めるのか。

感受性豊かで親切な愛に充ちた人間になるのか、
自分のことしか思うことのできない薄情極まりないエゴイストになるのか、
それとも愛に満ちた人間になるのか、
それを僕たちは選ぶことができるのです。
 
 この揺るがすことのできない事実を、聡明なあなたは十分にご存じでしょう?
 
 僕たちは誰一人の例外なく、
自分の人生を自分で選んできた結果、今の自分になっているのです。

過去がどのようであれ、今の状況がどうであれ、
他者がどのようにあなたを傷つけて来たのであれ、
たとえ誰もあなたを認めて愛してくれなかったのであれ、
それでも自分がどのような人間であるのかを
僕たちは自分自身で選択し決定することができるのです。

他の誰でもない、自分で自分自身の人生を選び取ることが出来るのです。
 
 盗みをしたり、殺人をしたり、自惚れてひとを蹴落としたり、暴力をふるったり、
人の誠意を無視したり、妬んだり憎んだり傷つけたり利用したり・・・

すべては、自分自身が選びとって、そうすることを決めて来たのです。

優しさと親切と同情心に溢れて感謝のうちに喜ぶ人、
他者を気遣い思いやりを持って接する人。

それも、その人が選びとってそうなったのです。
 
 過去に何があろうと、自分が今置かれている境遇がどのようであろうと、
人は、自分が求めた人間になるのですし、またそれ以外の人間にはなれないのです。
 
 もちろん、望んだところで、僕たちが今すぐに望むような
完璧な人間になることはできないでしょう。

乗り越え難い困難もあれば堪え難い苦しみもあるでしょうし限界もありますし、
他人はあなたの決定を受け容れてくれないかもしれません。
理解してくれず認めてくれないかもしれません。

しかしそれでも、願い求めて意志するなら、
その困難さがその人を強くしてくれる筈なのです。

苦しみこそが乗り越えようとする意志を強め、自分の存在の意味を深めてくれます。
困難や苦しみは深ければ深いほど、その人の心を高く深く豊かにしてくれる筈なのです。

  

① 人は、自分自身の人生を選択している。人は、なりたい自分になる。
  (もちろんこれは社会的な地位とか名誉とかお金とか有名性とか承認を
  手に入れることができるという意味ではありません。これは人格という意味です)。
  人は、望みさえすれば、自分の望むような人間になることができるのです。
  いや、なるのです。
 
 
 これは決してあなたに僕の考えを押し付けようとしているのではありません。
僕たちの決して否定することのできない真実を言っているのです。
僕があなたの切実に願い求める魂の美しさを信じているから言うのです。
 
 
 さて、上記のことを前提として、何処から始めていいのやら、難しいですが、
まずは僕たち人間を生かして、更に前へと押しやっている「生命そのものの意志」から始めましょう。
少し理屈っぽくなりますが、ご辛抱下さい。
 
 
「僕たちを生かしているものは何か」。

それを考えるには、僕たちが自意識を持つ以前の状態、社会の中に置かれる以前の状態、
つまり赤ちゃんについて考えてみるのが良いと思われます。

「赤ちゃんを生かしているもの」。

あなたはそれを何だと思われますか?
                 (つづく)

  

「人生とは何か、人間如何に生きるべきか」を問い続けること、そして思い考え感じた、それら名状し難い混沌をキャンバス上に表すことが僕の生涯をかけた仕事である。表現方法としては、西洋の材料である油絵具に金箔、銀箔、和紙、膠など日本の伝統的素材を加えて、これまでにない新しい世界観を表そうと考えている。わび、さび、幽玄など日本文化の最深奥に流れている概念があるが、そういう概念を介さずに直接心を打ち貫く切実さを描きたい。ものの持つ本来の面目を。

前 壽則 Mae Hisanori

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